交通事故と医者と弁護士と「素因」名古屋の弁護士解説

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弁護士コラム Column

交通事故と医者と弁護士と「素因」

2011年07月26日
名古屋事務所 弁護士 森田 祥玄

Q:私は70歳ですが、今まで健康でした。特に病院には通っていません。
ところが追突事故に遭い、首を痛めました。その結果、後遺障害12級の認定がおりました。

すると保険会社から、
「あなたはもともと怪我が拡大しやすい体質でした。あなたの素因が原因で損害が拡大したので、賠償額を4割減額します」
と言われました。​
裁判になっても、やはり4割も減額されてしまうのでしょうか。
​交通事故の裁判においては、保険会社側は、

「もともと被害者側の体質で損害が拡大したのだから、賠償額は減額されるべきだ」
という主張をすることがあります。

もちろん、保険会社も、何らの根拠もなくそのような主張をすることはあまりありません。
きちんと医師の意見等を仰いでいます。

裁判でも、医師の意見書が提出されることもあります。
しかし、
医師が使う「素因」
と、
交通事故において弁護士や裁判所が使う「素因」
とでは、若干ニュアンスが異なります。

このニュアンスの違いから、訴訟になり、判決に至るケースが見られます。
医師が使う「素因」とは、「怪我が拡大しやすい体質」というような意味で使われます。
日本語として間違っているわけではありません。

しかし、裁判所は、このような意味での素因を有するからと言って、直ちに減額するわけではありません。
怪我が拡大しやすい体質の人の場合に常に減額するとしたら、高齢者の交通事故はほとんど減額することになりますよね。

特に訴訟で問題となりやすいのは体質的素因ですが、判例は、
「被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患がともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全てを賠償させるのが公平を失するときは、……当該疾患を斟酌することができる」としています。

そして、体質的素因については、最判平成8年10月29日の2つの判例が参考となります。

二つの判例は、

・(首が長い人がむち打ちになったなど)身体的特徴については、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の在しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできない。

・疾患については、治療の長期化や後遺障害の程度に大きく寄与している場合は、損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することができる。

と要約することができます。

ですので、以上の判例法理を踏まえ、体質的要因については、「疾患」といえるかどうかが素因減額の一つの基準となります。

各交通事故訴訟においても、もともと被害者が「疾患」を有していたかが争われるのです。
そして、交通事故前に症状が発症していない程度であれば、「疾患」にはあたらないとして素因減額を否定する裁判例も多くあります。

他方、「疾患」にあたるような症状が既に発症していたような場合は、素因減額がなされる可能性が高いと言えます。
医師の意見書などでは、疾患とはいえないような、加齢に伴う変化についても、「素因」と表記することが多々ありますが、我々が使う素因とは若干ニュアンスが異なります。今回のご相談も、素因減額が認められない可能性もあるかと思われます。
ただ、素因減額については、正直、きちんとしたルールがあるわけではなく、裁判官によって結論が異なるという側面も否定できません。

保険会社の言い分が認められる事例も、たくさん存在します。
納得できない場合は、一度弁護士にご相談下さい。

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